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低脳と読むV.ウルフ「壁の染み」

最愛のあなたへ。

 

読みたいけど読みにくい。そんなウルフ作品を楽しもうと、グッと来た文章や表現を書き留めつつ、物語の進行チャートみたいなものを作ろうとする試み。

主観や推測だらけで勘違いもきっともりもり。ウルフはWolfじゃなくてWoolfなのがすき。

V(ヴァッソニャン).


[壁の染み](ちくま文庫 西崎憲編訳『ヴァージニア・ウルフ短篇集』収録)

ネタバレ:🐌


~おもな登場人物~

:なにかと屁理屈をこねては立ち上がる事を拒否するあへあへマンピー視姦おばさん。

STAND UP TO THE VICTORYできる立ち場にありながら立って勝ちに行かない愚行の人類。

いくつもの思考をかさねていつかきっと染みの正体を掴んでみせる。

壁の染み:激しい雨に心を震わせていつの間にか壁についてた鼻くそみたいな謎の黒点。

黒っぽくて小さくて丸い。君(私)が僕を見つめ続けてくれるから終わりのないディフェンスをやる。


~チャート~

■チャート1:誰だ鼻くそ壁につけたの

■チャート2:物事の根源すら把握出来ぬ我ら人間は…愚か……!

■チャート3:理解出来ない物に当たり前に囲まれて暮らす私、絶賛啓蒙値上昇中!

■チャート4:変化の全てを知ることは出来ないし、それって不確定すぎる!

■チャート5:己の認知を疑え!パラダイムシフト私。

■チャート6:考えつくすことの美徳、そして考えつくすことの愚かしさ。

■チャート7:ついぞ見よ、立てよ御婦人。決着・壁の染み。


■チャート1:誰だ鼻くそ壁につけたの

 

染みは小さく丸かった。白い壁に黒く点じている。マントルピースのうえ、だいたい6インチか7インチうえ。(p157)

・主人公の「私」、自宅の白い壁に黒くて小さい何かがくっついている事に気づきます。誰だ鼻くそ飛ばしたやつは。立ち上がって拭き取るのはおっくうなのでまだ座っていたいお年頃。メイドが拭け。

・マントルピースのチョイ上はウルフ作品頻出のオキニスポット。

 

 

■チャート2:物事の根源すら把握出来ぬ我ら人間は…愚か……!

 

もし染みが釘によって生じたのだとしたら、普通の絵を架けるために釘が打たれたわけではないだろう。細密画を架けるためだったに違いない――婦人を描いた細密画。(p157)

・立ち上がって見に行けば済む事ですが、それじゃあ楽しくないのよ私!きっと釘でブチ開けられた穴が染みになったんだワ!とどっしり座ったまま仮説を立てて壁の染みを推理し始めます。

 

私はしばしば、前の持ち主たちのことを考える。それも妙な場所で。もう二度とその人たちを見ることができないからだろう。(p158)

・そしてそれはきっと絵を架けるための釘で、これこれこういう絵に違いない!。この屋敷の前の持ち主の趣味や流儀を加味しつつ推理を重ねていくうちに、物事の歴史やそれらを形作る事実の数々を把握したいだけの思いはあるのに、決してそのすべてを把握しきる事はできない事に気づき、私は漠然と過ぎ去ってしまったものへの無力感と郷愁を感じてしまいます。

 

私は立ちあがるかもしれない。けれども私が立ちあがって、染みを確かめたとしても、それが何であるか指摘することは九分九厘できないだろう。(p158)

・考えてみれば既に出来てしまっている染みについて推理してみたって、根本や根源の事実確認にはならないので、推理を100%信じる事は出来ぬ…!と早々に賢者モードに陥った私は、あらゆる所有物に対する持ち主の支配力は、実はごく僅かなものなのではないかと考察します。立ち上がっても無駄なので立ち上がらない方が建設的!

 

ひとつのことが一度為されてしまえば誰もそれがどのように為されたか知ることはもうできないのだ。いやはや、何という人生の神秘。何という思考の杜撰さ。人間の愚昧さ。(p159)

・愚か愚か!愚かで杜撰な痴呆です!世界じゃそれを人と呼ぶんだぜ!

・「フッ…人は愚か…!」と真理的なものに到達してる風を装っている私ですが、壁についてる鼻くそ(?)の話。

 

 

■チャート3:理解出来ない物に当たり前に囲まれて暮らす私、絶賛啓蒙値上昇中!

 

驚くべきことはこの瞬間、私の背後に服なら何でもというほど揃っているということである。堅固な家具に囲まれてすわっているということである。(p159)

・そういえばこの服がどこからどう来てどう作られたのか知る事もできない私。実態は未知でしかなく、全ての把握や支配の不可能な大量の物、つまりるところ本質は未知の文化そのものに身の回りすべてを取り囲まれて暮らしているのだ……?!。

 

絶え間ない消耗と絶え間ない恢復。すべてがとても無計画で、すべてがとても出鱈目……。(p160)

・おもちゃや子供の頃の宝物、手回しオルガンやいくつかの宝石、それにそれに…と、これまでの人生において支配力を失効し、失われた様々な物を列挙していった私は、それでもなお、当然のように大量の物に囲まれながら過ごしてきた自らを振り返り呆れてしまいました。STAND UP TO THE VICTORY2番をご斉唱ください。子供のころの小さな思い出 時が壊してゆく…

 

 

■チャート4:変化の全てを知ることは出来ないし、それって不確定すぎる!

 

草の根を掻きわけるようにして、巨人たちの足下で。さまざまな事が言われている。曰く、木になる、曰く男と女である、あるいは、そうしたものになったにせよ、ひとつの状態に留まるのは五十年かそこいらである。(p160)

・人間の赤子を例えに、変化の始まりから終わりまでについて推測や推理をする事の無力さを感じ取り、染みが現在進行系の変化によるものではなく、染みが持ちうる全ての変化が終了した「死後」のものだからこそ、今に明瞭になって顕現したのではないかと思う私。

 

にもかかわらず、壁の染みは穴などではない、それは穴ではなく何か丸くて黒いものである可能性さえある。(p160)

・となるとあの黒点は一体…?変化をやりきって(死んで)沈着した穴だと思うけど、結局の所そもそも穴じゃない可能性も秘めすぎていて見れば見るほど分からんコワイ!。結局私にはあの黒点が何なのかわかりませんでした。いかがでしたでしょうか?鼻くそを覗く私もまた鼻くそから見つめられているのだ。今後の鼻くその動向に期待です。

 

外の木はとても優しく窓ガラスを叩く……。私は静かに考えたい。穏やかな気持ちで、ゆったりと、少しも邪魔されずに、椅子から立ちあがることを強いられることなく、ひとつのことからつぎのことへ辷らかに移動し、反対あるいは邪魔される感覚を覚えることなく。(p161)

・しばらく考える時間をください…

・立ち上がりたくない……

・布団の中から出たくない……(打首獄門同好会…)

 

自己を安定させるために、心を掠めていく想念の最初のものを捕まえさせて欲しい……。シェイクスピア。……そう、彼はほかの者同様巧みにやってのけるだろう。(p161)

・わからんだらけの私は不安よな。私、集中モード入ります。BGMはXIかCC···12ylでお願いします。

・シェイクスピアのように感知力をアゲるのよ私…!

 

 

■チャート5:己の認知を疑え!パラダイムシフト私。

 

よく使われる言い方で言えばトロイを三度埋められるほどの埃。ただ壷の欠片だけが断固たる態度で生き抜いたトロイのその埃。人が信じているように。(p161)

・最初に掴み取ったのは「トロイの埃」という言葉でした。しかし現実離れしたこの言葉が当然のように文化の中で用いられている事にギアッチョな私。すなわち、あらゆる認識というのは当然のように実像から離れて歪められているのではないでしょうか。知らんけど。

 

実際、不思議なことだ。人がいかに本能的に自己のイメージの偶像化の弊から自分を保護しようとするか、また戯画化を免れようとするか、原型を想定するのが困難なほどの歪曲から逃れようとするか、ということを考えると。(p162)

・周囲の勝手なイメージによって形作られる自己の確立を認めながらも、勝手な妄想の押し付けだけではなく、少しばかりの見栄をはって飾り立てた、実像よりワンランク上の虚像に微修正された自分の方を自分だと認知してほしいという内心を持つ私でした。しかし表向きはきちんと見栄を隠しながら、同時に実は小出しにしている、誰しもが秘める小出し匂わせナルシズムの妙に多少の美徳を感じています。

 

姿見が割れることを想像して欲しい。像は消える。鏡面いっぱいに映っていた深い森の緑を湛えたロマンティックな影はもはやどこにもない。ただほかの人々の眼に映るのと同じ、一人の人間の殻が残るだけ(p162)

・しかし自分で自分を見つめて認知していなければ、自ら形作った微妙な虚像も意味を成さなくなり、他者からの純粋な認知に対してすべてのガードを下げた世界で苦しみ喘ぐ事になってしまいます。つまり結局は、誰しも他人の目を借りて自分を見ているに過ぎないのでした。

 

それは私たちの眼のなかの空虚さ、ガラスのように無機質な光のことを教えてくれる。未来の小説家たちはそれらの鏡像の重要性をだんだん理解していくだろう。(p163)

・そうした認知の妙がこれからの歴史の中で研究され、あるいは未来の小説家たちが語り述べる※事で、文化の中に今とはまた違った「当然」や「普遍」、「常識」が形作られていくのかもしれません。そう、「トロイの埃」というわけわからん言葉のように。

・※ばくれつおもしろギャグ

 

それ以外のテーブルクロスは本当のテーブルクロスではなかった。(p164)

・思えば我らがロンドンに有る文化もそうでした。ローカルルールで、ある期間に使うテーブルクロスは必ず黄色い四角が並んだタペストリーではなくてはならなかったのです。どうしてと思ってもそれが常識だから。私はそういった常識の認知がふと崩れ去り、完全な現実性を持ち得ない幽霊のようなものだと気づいた時の感覚を、常識という法に背いてしまった衝撃と隠れて手にした自由の感覚がとても素晴らしかったと振り返ります。

 

現実のそうしたさまざまなものや標準的なものにいま取って代わっているのは果たして何だろうか?それはたぶん男性だ。(p164)

・この時代、文化や常識を形成しているのは男性たちなのでした。それが標準を決めているのです。「ナプキンを取れる者が決めている!」(大統領)されど価値観は時代とともに変遷するものです。あらゆる流行や当たり前は次第に用済みとなってゴミ箱に捨てられてしまい、それらにまつわる違法な自由に酔いしれる感覚だけを残して消え去ってしまうのでした。

 

 

■チャート6:考えつくすことの美徳、そして考えつくすことの愚かしさ。

 

それに完全な円形をしていないように見える。確信があるというわけではないが、それは知覚できるほどの影を落としているようだ。(p165)

・ここに来て染みが立体物である疑いが強まって参りました。なんなん。「『楕円球』だッ!不完全ッ!」(大統領)

 

なだらかな傾斜の塚。ちょうどサウスダウンズにある塚のような。墓とも要塞とも言われる塚。そのふたつのうちでは私は墓であったという説のほうを好む。(p165)

・私は染みの隆起形状から、近所に存在する古墳的な地理を連想します。既に出来上がってしまったその隆起に関して「様々なことが言われて」いますが、そのうちでなら私がロマンを感じるのは墓の方。それはイギリスの国民性がそうなんです、メランコリーが好きなんですよイギリス人。と続けざまに偏見を語る私。

・日本にもおっぱいおっぱい言われてる山とかあった気がする。おっぱい説以外は無いのか?

 

そして要塞なのか墓なのかという偉大な疑問の解決を永遠に一時停止の状態にしたいと願う理由をすべて有している。(p166)

・それから古墳調査隊の人たちってどんな人たちなんだろうか?とまた枝道に脱線する私。例えば鏃が見つかったら?鏃ひとつに大興奮して、あちらこちらの田舎町を目指して各地の鏃との比較研究旅行をするでしょう。男どもがロマンを求めてワクワクしながら調査に邁進すればするほど、その妻達はやりたい事をやる時間が出来てワクワクwin-winでしょうね!グヘヘ!ゲヘヘヘ!

 

中国の女殺人者の足や、掌一杯ほどもかるエリザベス朝人たちの爪や、多量のチューダー朝の陶製のパイプとか、ローマ人が遺した陶器の欠片とか、ネルスン提督が使ったワイングラス――私がまったく知らない何かを証明するものと並んでいる。(p166)

・ロマンを極めた男どもが、その学芸発表会のスピーチで興奮のあまり鏃の事しか考えてない状態で頭に血が上ってぶっ倒れて死ぬ頃には、その偉大な鏃は他のよくわからない何かを証明するよくわからない何かたちとともに展示されちゃってるんでしょうね知らんけど。

 

二百年前にそこに打たれ、何代にもわたる家政婦たちの辛抱強い拭き掃除のお陰で塗料を押しのけて頭の部分を現し、暖炉の火が照り映える白い壁のなかで営まれる現代の生活をいまはじめて見た古釘。(p166)

・古釘説。しかし実際古釘だったとして、そんなものを確かめて何になるというのでしょう。掘り出された鏃と同じ。なんの知識が得られるのでしょう。あるいはさらなる考察のための事実でしょうか。

 

 

■チャート7:ついぞ見よ、立てよ御婦人。決着・壁の染み。

 

すぐに私は立ちあがって、壁の染みがほんとうは何であるのか自分の眼で確かめてみなくてはならない――釘なのか、薔薇の葉なのか、板の割れ目なのか。これはふたたび人の性の昔ながらの自己保存の営みだ。(p167)

・考えて考えて、そしてその思惟に終止符を打つ事は言ってしまえば丸っきり無駄な努力。無駄な浪費である事を内心私は認めており、しかしその思考の決着こそが一種の人間の性(さが)であると結論付けます。

 

そしてもしあなたが慰められなかったならば、もしこの平和な時間を粉砕しなければならないとしたら、壁のあの染みのことを考えるのだ。(p168)

・常識に従い、脱法的な事を考える事なく、行動のみによって自分を慰めることの出来る男性たちの事を無害とし、私は人間の性に従い、ついに壁の染みとの決着へ向かいます。

 

すべてのものは動いている。落ちつつある。滑りつつある。消えつつある……。膨大な数の事物が新たに出来する。誰かが前に立って喋っている――。(p170)

・壁の染みをじっと見つめながら。木材に始まり樹木へと遡り、世界中の自然へと広がり再び加工された木材へ。時間と空間を自由に行き来する思惟の奔流にのまれ流されながら、ふと壁の染みと私との間に、誰かが。立って。しゃべりかけてくる?思惟の奔流から呼び起される時、ついに「私」は壁の染みの実像を目撃します。

 

「新聞を買いに行くつもりだよ」

「新聞を買いにいく?」

「新聞を買ってもしょうがないんだが……。何も起こらないんだから。忌々しい戦争だ。戦争なんてくそくらえだ……しかし、どうでもいいが、何で壁で蝸牛を飼わなきゃならないのかさっぱり判らないな」

ああ、壁の染み、それは蝸牛だったのだ。(p171)

・🐌


ああ、バスタード・ソード。それはロング・ソードだったのだ。