あちらの「地球」にあたる惑星の名称は「エリド」。
[ヘイル・メアリー]と[ブリップA]を繋ぐトンネルの中で出会ったのは、岩の肌で出来た蜘蛛のような生き物。サイズは犬くらい。
五角形のベースに、角からそれぞれ脚が生えている。計5本の脚の先にはそれぞれ3本指の鉤爪。服を着ている。鉤爪なのにとんでもなく手先が器用。上記トンネルもささっと作った。
グレースは彼に「ロッキー」と名をつけ、透明な壁を挟んだトンネルの中でさらなる意思疎通をはかる。
このロッキーくんとのやりとりがこれまた知的かつコミカルで最高に面白い。ロッキーの生態を科学知識総動員でグレースが考察&検証してトンネルの壁の向こうにいる相手の解像度を高めていく。
・お互いのアナログ時計を交換する。
→エリドで使用されている数字の形と進数法を把握する。エリド時計は数字が物体として浮き上がるデコボコ仕様。
→ロッキーは地球時計をうまく読めていない。
→ロッキーに視覚はないが、音波、エコロケーションによって空間や物体を認知しているのではないか。
という具合の生態調査を(互いに)繰り返していく。
そしてロッキーはクジラの鳴き声のような音を発することから、ここでグレースはラップトップでプログラミングタイム。即席の翻訳アプリ(エリド語と英語を相互にスプレッドシートに語彙としてインプット、音声としてアウトプットが出来る)を作って会話を繰り返すことで、共通の語彙を増やしてある程度会話が成り立つようになる。
※翻訳後のロッキーの言葉は「ぼくは科学わからない。ぼくは使うだけ。謝罪」という具合に若干カタコト系で表現される。
ほんでなんやかんやで仲良くなる。
ここでまた絶妙だと思ったのが、ありがち(?)な「宇宙人のほうが文明が進んでる!!」ということでもなく、文明のレベルは一長一短。工学や技術などエリドの方が優れている分野もあれば、宇宙に関するアレコレや科学などは地球の方が優れている。(とはいえどちらにも大きく差はない。)この辺のバランスが絶妙。
例えば[ブリップA]ではロッキー以外のクルーが全員死亡してしまっている事が明かされるが、ロッキーは全滅の原因、自分だけ生き残っている理由までは分からないでいる。グレースは[ブリップA]の構造やエリディアンの体の特徴から、ある事実※に気づき、[ブリップA]クルー全滅の原因やロッキーの生存理由を解明する。(それを聞いたロッキー、ガチ凹みする。)
※宇宙放射線の知識の欠如。宇宙放射線を知らずに宇宙船を急造して飛んできたため、他のクルーたちは宇宙放射線に体を蝕まれて倒れていった。が、ロッキーはエンジニアとしてエンジンや燃料タンクなど遮蔽物に囲まれて過ごしていたため死を免れた。
[ヘイル・メアリー]と[ブリップA]。そしてグレースとロッキー。互いにたった一人取り残されてしまった二人がペトロヴァ問題を解決するために手を取り合い、ついには[ヘイル・メアリー]に同船することに。
以降はグレースが考えて提案。→ロッキーが必要なものを作る。→実験、検証。といった繰り返しで物事を進めていく様子がとても面白い。グレースの科学知識とロッキーのエンジニアリング。成功と失敗、トライ&エラーの繰り返し。互いの技術や知識には抜群の信頼を持ち、互いの文化をある程度理解、尊重してやっていく二人が微笑ましい。間違いなく本書のヒロインはロッキーだ。
グレース一人では技術的に成し得ない製造に関するアレコレが”(ロッキーがつくってくれる)”という一文で勝ち確が決まる感じが爽快で楽しい。
ロッキーの方もグレースの知識や科学的考察から着想を得て便利なものを発明、製造していく。ロッキーの賢さについてはグレースは始終褒めっぱなし。
・人間が見ているという「色」を認識したいので、カメラを作って色をエリディアンにも認識できる形に変換する。
・エリディアンが[ヘイル・メアリー]船内の環境でも活動可能なように自らを包む保護ボール(ウォーターバルーンみたいなの)や移動用トンネルを急建造。
・宇宙のどこかへ紛失した[ヘイル・メアリー]のネジや今後の活動に必要な補強パーツを作ってあげる。
などなど。ロッキーが素直&賢くて可愛いけどたまにグレースのガバにキレて毒も吐く。お互いに毒を吐いたり「皮肉」を理解したり。グレースとロッキーが知識的、技術的に交流する様子は本書の中の知識欲をとてもくすぐるパート。
それでもエリドと人間の文化双方で納得がいかない部分もちらほら。やれ危険な船外に出て活動する人間は♫♪♫♪(訳語:クレイジー)だのやれ大切な水分を身体から大量に洩らすのはおかしい※だのロッキーがグレースにドン引きしたりする。
※排尿やら涙やら。
グレースも「寝る時は必ず他の誰かが寝姿を見守る」というエリディアンの妙な文化に辟易する。しつつも従う。
作中多岐にわたる細々とした実験に成功すれば互いに手をグーにして打ち付け合って祝う。
食事は一人で取る(エリド文化。エリディアンは排泄と食事を同時に行うため食事は下品な行為にあたる。がグレースの頼みで1回食事風景を見せてもらうという羞恥プレイを強要されて半ギレで脱糞する)。
「それが地球/エリドの文化。」という不文律によって彼らの文化交流と友情は半強制的に培われていくのだった。
感想が長ぇ!まだ続く!次で終わるたぶん!
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