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低脳と読む「帰りたい/HOME FIRE」カミーラ・シャムジー著

「帰りたい」(原題:HOME FIRE)カミーラ・シャムジー著を読んだのでうろ覚え振り返り。

読み終わってからしばらく経っているのでほんとにうろ覚え箇所多。

 

ここ日本からちょっと遠いけど親しみ深いイギリスで、あまり親しみ深くはないムスリムの家族(イスラム教の人ごめんなさい)が暮らすとどんなに苦しいかを描く、「イギリス生活はもうこりごり・イスラムホームに帰りた~い!」なエッセイ小説……と思いきやだんだんコトが大きくなっていき最後にはどえらい破滅が齎される。もうどーしろっちゅうねん、どうしろっちゅうねんもう……な最終的に全てが上手くいかずに一瞬の爆裂とともにひっどい余韻を楽しめるお話

 

英国籍ムスリムの苦難エッセイと思って読もうとしたら「思ってたんとちゃう」となる事請け合い。『嘘喰い』最序盤の「気付かぬうちにハマってる?!社会の落とし穴」みたいな路線が即座にどっかに吹き飛んでいったような、悪くない意味での「思ってたんとちゃうかった感」を数十倍ブッ飛ばしたような衝撃が襲い来る。本当に「これ」が結末なのかと信じたくなくて、ラストだけ何度も読み返したけれど、やっぱり「そういうこと」らしいと、したくもない理解に至る。

ラストは「こんなつもりじゃなかった版『ディエンビエンフー』」。


主人公らはムスリム系のとある3人家族。

大人しめだけどしっかり芯の通ったそこそこの清楚系ムスリムJDイスマと、

その妹・アニーカと弟・パーヴェイズ

この妹弟は双子であり、精神的なつながりがとっても強大。いつも二人なかよしで、イスマに話せない事でも双子の間では隠し事なし。途中から特にアニーカ→パーヴェイズの矢印がデカい。その矢印のデカさが物語を先導していく。小さな破滅から、より大きな破滅へ向かって。

アニーカは美貌煌めくイケイケムスリムギャル。弟はオーオタ。

 

基本上記の3人が主人公で、イスマとアニーカどっちともイイカンジになるボンボンエイモンくんと、そのオトン(イギリス政界のお偉いさん。ムスリム系の出自ながらムスリム規制派。)の視点でもそれぞれ物語が紡がれる。アニーカとの真実の愛に目覚めた童貞エイモンくんの活躍に乞うご期待。


【冒頭】

物語はイスマが空港で取り調べを受けている所から始まる。イスマはこのたび海を隔てた遠い大学に入る事になったのだけれど、「ムスリムだから」という一点により出国理由を怪しまれ、不当に拘束され長時間の取り調べを受ける事になる。

 

数時間に及ぶ「失礼な」取り調べを無事に通過した頃には予約の便は既に遠い空のむこう。このような理不尽な仕打ちはもちろん当然だと言うように、イスマに対しこれといった謝罪もないままの釈放。だってムスリム怪しいじゃん?態度はあくまで丁寧だけれど、言ってる事は「あーはいはいお疲れさん。払い戻すから次の便に乗れば?」。

 

ともあれなんとか大学のある国に入国できたイスマ。そこで出会った男性(エイモン)に淡い恋心を抱いたり即妹に寝取られたりする。このへんのメロドラマチックな描写が意外と泣かせに来る。

でも即妹に寝取られたりする。


【双子の進路】

イギリスに残った双子もこれからどうするかと悩む。彼女らは生活の基盤を姉・イスマに頼っていたものだから、これからは二人で力を合わせてガンバロ~……とはいかず、双子の弟・パーヴェイズが過激派組織イスラム国(IS)に入っちゃう。

 

この家族のオトン(故人)がISのジハード戦士で、世界のアッチコッチでテロして回ってたイスラムの英雄扱い系テロリスト。(そんなもんだから主人公家族は知らないうちに「危険因子」としてイギリス国家からマークされちゃっている。)

弟のパーヴェイズはそんな会ったこともない父に憧れを抱き、またそんな父の活躍を現場で目の当たりにしてきた自称右腕系ISの構成員直々のリクルートにより、あっさり口車に乗せられてホイホイ加入しちゃう。「オメェのパパン、マジ英雄!その息子のお前はモチのロン英雄の資質がアリアリなんだよね。君もヒーローになろう。みたいな。

 

パーヴェイズは会ったこともない(偉大なる)父を越えたい一心でテロ活動に加担するはめになっちゃう。(でもオーディオ知識を活かせる広報担当に配属されました。やったねパーくんチューシャカポン。パーくんバックオーライ!※)この社会に無知な若者をISにリクルートする様子がリアルで怖いの。

 

※◯イワパーク


【帰りたい】

ところがISに参加して初期訓練や任務実習のために外国に連れて行かれて帰国用パスポートもISに没収されたパーヴェイズくん、普段はオーディオ機器ばっかりいじくり回して生活の全てをお姉ちゃんに頼り切っていたナヨナヨもやしっ子なもんだからすーぐヘコたれて「帰りたい」って弱音を吐いちゃう。

イギリスに居る双子のアニーカはそんな新人研修バックラーと化したへなちょこ弟とこっそり連絡を取り合い、ありとあらゆる手段(R-18❤込)を駆使してなんとか愛する弟をイギリスに入国させようと奮闘する。アニーカによる弟帰国計画の一環でイギリス政界のお偉いさんの息子(エイモン)のムスコ(エイモンスティック)が説得される。お偉いさんの息子、たっぷりしゃぶられた事で真実の愛に目覚めてオトンの説得をガンバる。でもダメ、ぜーったいダメ。過激派組織はダメだ、息子よ。

 

あの子の口でイカせてもらったのか、エイモン? それだけのことか? そうなら、パパの言うことをよく聞け。世の中にはもっとそういうのがうまい娘がいくらだっている(原文ママ)

 

アニーカは引き続き弟の帰国計画をガンバる。ガンバってあと少しの所まで来る。ところが、パーヴェイズ、帰国計画を全うするそのあと少しの所でISに射殺される。軽い気持ちでISに参加した「馬鹿な若者」を、その軽率さを、ISから抜け出す裏切者を、無慈悲にISの銃が狙撃する

 

イギリス領事館前で血まみれになって斃れたパーヴェイズ。

物語は以降、「パーヴェイズの遺体をイギリスに帰国させる」ためにアニーカが奮闘を続けるお話にシフトしていく。国へと帰りたい。弟といっしょに。弟を帰してあげたい。でもイギリス的には遺体を帰国させたくない。絶対危ないやんそんなISの手垢付きまくったいわくつきの遺体。ISの英雄的テロリストの息子の遺体なんて。やめて!


【終幕】

引き取り手の無い弟の遺体をイギリスへと帰すため、公園に安置された弟の遺体のもとで連日無言の抗議活動を続けるアニーカ。

愛するアニーカを助けるべく、追ってイギリスから駆けつけるエイモン。

アニーカを見守るべく遠巻きに構えられたライブカメラの前で、

おとぎ話の王子様の如く颯爽と現れたエイモンを、熱い抱擁が迎える。

 

民衆の中に潜み待ち構えていたIS員2人による抱擁が。

 

抱擁が解かれると、エイモンの腰には見慣れぬ、しかしニュースで見慣れた、重たいベルトが巻かれていた。


誰かを助けたい一心で駆け付けた英雄が、一瞬で自爆テロリストに仕立て上げられる。愛しあった一人の女性と、彼女が愛する弟の遺体とともに、もって数秒先の、「その瞬間」を迎えんとする場面で物語は幕を下ろす。


その他所感

・ラスト読んだら「あー~~ー~~~……」「はーーー~~~~」「IS、おまえ、なんてことを……」ってなる。なった。

・スマホ持ったIS情強すぎ

・ISを迷える若者の理想郷だと見せかけるリクルート用LPみたいなのまで作ってるの感心(?)しちゃうレベル

・せっかく心を入れ替えてエイモンのオトンがパーヴェイズの遺体を帰国させようと決心したのに……そのすぐ後にこのラストシーン。その様子もテレビ中継されていたようだから、息子が自爆テロリスト(+渦中のアニーカ、パーヴェイズ(遺体)を巻き込み爆散)と化した姿を放映されてオトンの地位も失墜間違いなしで可愛そう。

・イスマといい雰囲気になったけどアニーカの写真見て一目惚れ・即乗り換えるエイモンくん良い性格してるよ

・HOME FIREっていいタイトルだよね

・表紙の人物は最初イスマだと思ってたけど描写的にアニーカの方かな

・同時進行で『キン肉マン』読んでた&五王子編のアニメを追っていたこともあって、作中メインで悪さしてるIS構成員(パーくんパパの右腕)ファルークさんの脳内見た目が名前のせいもあり完全にハルク・ホーガンになってた

・kindle版無かったから紙の本で読んだ。重かった……


バッソニャンはちょくちょく実家に帰る。