最愛のあなたへ。
読みたいけど読みにくい。そんなウルフ作品を楽しもうと、グッと来た文章や表現を書き留めつつ、物語の進行チャートみたいなものを作ろうとする試み。
主観や推測だらけで勘違いもきっともりもり。ウルフはWolfじゃなくてWoolfなのがすき。
V(ヴァッソニャン).
[オーランドー](ちくま文庫 杉山洋子訳)
駆け落ち計画から第一章ラストまで。
~おもな登場人物~
オーランドー:ロシアンギャルにゾッコンでもはや婚約者の事が一切頭にない主人公。サーシャちゃんが好きすぎるあまり全ての栄光を捨てて駆け落ち計画に奔走する。
サーシャ:寒波を引き連れやって来た魅惑のロシアンギャル。そして寒波を引き連れ帰っていく疑惑のロシアンギャル。
~チャート~
■チャート1:文武両道美少年・おれはオーランドー16歳
■チャート2:謁見にいこう!女王の威光にひれ伏しカウンター
■チャート3:女王とは遊びだったのね!なろう系ヤリチンの行きあたりばったりラブ
■チャート4:婚約成立!舞い戻り美男に縁談地獄!
■チャート5:婚約無視!ロシアから来たギャル姫君と大接近!
■チャート6:恋!そのすてきな女狐がオーランドーを行動させたッ!
■チャート7:全てを賭けて!駆落計画進行中!
■チャート8:第一章完!空と海と大地と氷と共に去りぬ呪われし姫君
◆第一章のまとめ
■チャート7:全てを賭けて!駆落計画進行中!
君と比べるとあんなのは木石か、粗布か、燃えがらだな、という。この口の悪さに笑い出して、彼女は抱かれたまま向き直ると、愛する男をも一度抱きしめるのだった。(p40)
恋人たちにとってはどんな話題だって、過不足なしなのだ。(p41)
・寒波に凍りついた氷点下の中、唯一アツアツなお二人。凍った川の上に身を投げだして二人だけに通じる言葉で抱きっこピロートークです。サーシャも渾身のデスロールで抱き返し、オーランドーと世界中のあひとあらゆることについて話しあいました。
・地の文ですっかり恋人と認められてるサシャオラ。オラサシャ?見てる感じサシャオラ。
「万物の終焉は死だ」(p42)
・幸福の最中、急にメランコリーに陥り姿勢を正して氷河を見つめるめんどくせえ男オーランドー。サーシャには「なんだこいつ」みたいな目で見られます。
君はイギリスで見たことも聞いたこともないようなものに似ているんだ。いくら英語を引っかき回し探しまくっても言葉は見つからなかった。何かよその風景、よその言葉でなくちゃ駄目なのだ。英語は率直、明快すぎて、甘ったるくて、サーシャに似合わない。というのは、この女は言うことなすことすべてどんなに開けっぱなしで色っぽくても、何か隠している、どんなに大胆に振舞ってもいつも隠し事がある。(p42)
明瞭なのは外側のみ、内側は捕らえ難き焰だ。(p43)
・真は謎に満ち満ちたサーシャに夢中で悶え苦しむオーランドー。サーシャは何事かを隠しており、それが気になって仕方がありません。
時が経っていったが、オーランドーはおのが夢にくるまれて、生の歓び、わが宝石、得難き女、いかにしてかの女を完全に永遠にわがものとするか、しか頭になかった。(p44)
・もうユーフローシニーのユの字も出てきません。
困難を克服せねばならぬ。サーシャは絶対ロシアを離れないと言っている(p46)
松と雪一色の風景や情欲、虐殺癖は遠慮申し上げたい。(p46)
カナリー・ワインならぬウォッカを飲み、なんのためか知らんが袖にナイフを忍ばせる――なんてご免こうむりたい。(p46)
・サーシャはロシアでの暮らししか考えていません。となると困ったオーランドー。サーシャを追ってロシアにラナウェイすれば目に見えた地獄が待っているのです。
しかしだ、これすべて、いや、それ以上のことを彼女のためにしよう。(p46)
大家の姫君を捨てれば先方の親族一同の非難の的、友人みな、コサック女と雪の荒野と引き換えに願ってもない栄達を反古にした、と嘲けるだろう――が、サーシャその女と比べりゃ藁しべ一本の価値もない。最初の闇夜に逃げるのだ。船でロシアへゆくんだ。(p46)
・ユーフローシニーとの婚礼を一週間先に控えて、サーシャとともにロシアへ逃げる計画を企てるオーランドー。藁しべ一本の価値もない負けヒロインの行末やいかに?
■チャート8:第一章完!空と海と大地と氷と共に去りぬ呪われし姫君
サーシャが水夫の膝の上に坐っていた。(p46)
・唐突なNTRで脳を破壊されるオーランドーでした。
箱が重かったんですもの、この人に動かすのを手伝って貰っていたのよ、と彼女は言う。オーランドーは一瞬彼女を信じた(p47)
そして次の瞬間にはもう、騙した、と怒り狂う。すると、サーシャは真青になった(p47)
ロマノフ家のこのあたくしが下司な船乗風情と寝ただなんて、それがほんとなら、神々様、あたくしを殺して下さいまし(p47)
・サーシャの浮気疑惑にガチギレのオーランドー。毛むくじゃらで粗暴そうな大男にNTRれてしまったのでしょうか?一旦は愚かな思考を謝るオーランドーでしたが、サーシャもサーシャで別れ際に水夫に難しいロシア語で愛らしく言葉を交わすものですから、これがもうたまらなくオーランドーの脳を破壊せしめるのでした。
幾日か前のある夜、部屋の隅っこでそうっと床から拾った蠟燭の燃えさしをしゃぶっていたのを思い出した。(p48)
この女にはどこか粗野で下品な感じ、田舎女みたいなところがあるな、と思った。今でこそ葦のように細っそりと、ヒバリのように陽気だが、のっそりぶざまな四十女を想像してみる。(p48)
・サーシャに対する苛つきが過去の思い出をぶり返させるわ老いて醜くなった彼女を想像させるわでたいへんお怒りなオーランドー。しかし二人でロンドンへと帰っていくうちに胸のモヤモヤは晴れていき、美しい夕暮れに心を打たれるのでした。
自分の過去のことは黙して語らなかったのに、その時は、ロシアではね、冬になると大草原の果てで狼が吠えるのに耳を澄ますのよ、ほら、こんなふうに、と、三度も狼の真似をして吠えてみせた。(p49)
・傷心のオーランドーを慰めるように、いつもより優しくオーランドーに寄り添ってみせるサーシャ。
褒められてもう有頂天で、下等な水夫の膝に乗ってたとか、四十歳でのっそりぶざまになって、とか想像して悪く思ったことを恥じ入って(p49)
・魅惑のロシアンギャルに優しくされて即有頂天なチョロ貴族オーランドー、直前まで繰り広げていた悪辣な想像の愚かさに自分を恥じます。
オーランドーの頬の紅を残して、まもなく色という色が消え失せた。夜が訪れた。(p49)
・サーシャと仲直りのイチャつきをやり身も心も灼熱なオーランドー。闇夜にすら勝る熱ここにあり。
暗い夜だ、真暗闇だ。が、このような夜をこそふたりは待っていたのだ(p52)
「わが生涯最良の日!」と囁いた。これが合言葉だった。(p52)
・「最初の闇夜に逃げるのだ。船でロシアへゆくんだ」。馬はすでに待たせてあります。そしてこの夜、オーランドーとサーシャの駆落計画が実行に移されました。
十二時にほど遠いうちからオーランドーは待構えていた。(p52)
闇はいよいよ深まった。(p52)
オーランドーは闇の中で待った。(p53)
全神経を集中して、カンテラの火に光る舗石道を凝視して、サーシャを待った。(p54)
オーランドーは六つ目で彼女が来る、と決め込んだ。だが、六つ目も消えていった。七つ、そして八つ、死と凶事の予告と宣告だ。十二番目が鳴って、わが運命定まれり、と知った。(p54)
オーランドーの情熱的で感じやすい心は真実を直感したのであった。(p54)
・身支度のために一度帰り再合流を果たす手筈の二人。サーシャの到着をただ待つオーランドーの頬を降りしきる豪雨が打ち付けます。約束の十二時を告げる大聖堂の鐘の音が、凍えるのオーランドーの情熱を打ち砕きます。
遂にセント・ポール大聖堂が二時を告げるや、恐ろしい自嘲のあまり歯を剝き出して「わが生涯最良の日か!」と叫ぶと、カンテラを地面に叩きつけ、馬に飛び乗って、行方も知らず全速力で駆け去ったのだ。(p55)
・サーシャの裏切りと自らの愚行の極みに自嘲すら浮かべるオーランドー。サーシャへの想いを断ち切りふりきるように一人馬を全力で走らせます。
・それでも二時まで待ってた。かわいそう
茫然自失、仰天してオーランドーは眼前を驀進する凄まじい奔流をしばし見守るのみであった。(p56)
各国大使の御用船が身動きもならず凍りついていた入江のこちら側にやって来た。大急ぎで全部調べる、フランス、スペイン、オーストリア、トルコ、皆いる、が、(p56)
ロシア船は、影も形も。沈んだのだ、と一瞬思った、が、鐙に両足踏ん張って背のびし小手をかざして、鷹ほどに遠目の利く目で見はるかすと、遥か水平線上、一隻の船影を辛うじて見てとったのだ。マストのてっぺんに黒鷲の旗が翻っている。ロシア大公国大使一行を乗せた船は大海へと針路をとっていた。(p57)
・寒波に凍りついた河川が溶けてゆき、大きな水流に流され破壊されてゆく各国船を見て茫然とするオーランドー。その中でひとつ危機を脱して遠い水平線へと消えてゆくロシア船がありました。裏切者のサーシャが乗っているのでしょう。馬から降りて海へと進み…
古今東西の悪女に浴びせられて来たあらん限りの痛罵を不実な恋人に投げつけた。不貞な、浮気な尻軽女め、悪魔、姦婦、裏切者とどなった、すると逆まく波がその言葉を捕え、こわれ瓶と藁しべ一本、足元に投げてよこしたのであった。(p57)
・怒りの足取りで冷海に膝まで浸かり憎悪の限りを投げつけたオーランドー。全ての栄光もサーシャに比べれば藁しべ一本の価値もないとまで言い切った彼の足元に波が寄越したのは…手痛い皮肉のお返しです。かくして寒波と共にやってきた姫君は寒波と共に去っていきましたとさ。第一章、完。
◆第一章のまとめ
イギリスの貴公子オーランドーは自然を愛し詩を愛する美童であり、ゆく先々で女性たちを虜にし女王の破格の寵愛を得るまでに至る。
多感で恋多き男に育った彼は高貴な身分でありながら、下賎な身分の者や冴えない女たちをも愛するが、遊び終えて王宮へと帰った彼に3つの姫君との縁談が運ばれてくる。
試しに交際を始めるオーランドーであったが、2つは性格の上で上手く行かず、イギリスを未曾有の大寒波が襲う中、3つ目、嫋やかで申し分のない娘ユーフローシニーとの婚約に至る。
ユーフローシニーとの婚礼を目先に控えたパーティの中、オーランドーは異国ロシア大使の娘、サーシャと出会う。サーシャの唯一無二性のある魅力に取り憑かれたオーランドーは彼女に付きっきりでユーフローシニーは不安を募らせるが、オーランドーはついにすべてを捨ててサーシャとロシアへ旅立つ決意をする。
サーシャへの恋情を奮わせながら日々を過ごし、ある日の真夜中、ついぞ二人は駆け落ちの計画を実行に移す。しかしいつまで経っても待ち合わせ場所に来ないサーシャを訝しんだオーランドーは、次第に自分が裏切られたという真実に気づき、サーシャへの怒りに身を任せて馬を走らせる。
海へ出ると大寒波で凍っていた氷海が溶け、なだれ込む水流に各国大使の船が破壊されつつあった。呆然としながらもロシア船を探すオーランドーであったが、影も形もない。沈んだものかと思ったがそうでない。目を凝らすと水平線の先、ロシア船がひとつイギリスを脱出していたのだ。
最愛の恋人の裏切りに怒り狂ったオーランドーは海へと進み出て、サーシャを乗せて遠ざかる船に向かって悪辣の限りの罵声を投げつけた。
カナリー・ワインならぬ黒松白鹿を飲み、なんのためか知らんが袖に鎧貫きを忍ばせる――そんな人間に自分はなりたい。つづく。
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