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低脳と読むV.ウルフ「ダロウェイ夫人」④

最愛のあなたへ。

 

読みたいけど読みにくい。そんなウルフ作品を楽しもうと、グッと来た文章や表現を書き留めつつ、物語の進行チャートみたいなものを作ろうとする試み。

主観や推測だらけで勘違いもきっともりもり。ウルフはWolfじゃなくてWoolfなのがすき。

V(ヴァッソニャン).


[ダロウェイ夫人](集英社文庫 丹治愛訳)

イキリレイツィアからリチャード帰宅まで。


~おもな登場人物~

リチャード:主人公クラリッサの夫。総合的にナイスミドル。

ヒュー:俗物高級デブ。悪い人じゃないのよ…。

セプティマス:シェルショックを患うナラティブソルジャー。エヴァンズのオキニ。

エヴァンズ:しょっちゅう地獄から顔を出しては手招きしてくるナイスゲイ。

ルクレイツィア:セプティマスのイタリアン妻。夫を支えるべくゲッソリがんばる。

ホームズ:セプティマスの担当医。メンヘラ治療はとりあえず外の景色でも見せとけ派。

ブラドショー:ホームズよりはるかにデキるナイスドクター。診察費がくそ高い。


~チャート~

■チャート1:クラリッサ・ダロウェイ51歳、パーティー用の花を買うためにロンドンの街に繰り出す。

■チャート2:花屋に向かう道をのんびり歩きながら、あれこれと考えてみる。

■チャート3:元カレの事を思い出したらイライラしてきましたわ!

■チャート4:クラリッサ・ダロウェイ、ヒア・アンド・ナウを愛していると自覚する。

■チャート5:生きる事で、死について気づく。

■チャート6:さて、えーっと。花屋に向かいましょう(本屋を見ながら)。

■チャート7:夫人、花購入RTA完走。代わりの主人公セプティマスが登場。

■チャート8:セプティマス・ウォレン・スミス、甲斐甲斐しい妻に付き添われお散歩中。

■チャート9:女王陛下の車(たぶん)、走るだけで多大な影響を与える。王室パワーを垣間見よ。

■チャート10:孤独にがんばるルクレイツィア。イギリスってクソだわ!

■チャート11:ロンドン一般市民ガチャSR文豪デンプスターさん登場。濃いモブたちの内省の様子。

■チャート12:ダロウェイ夫人帰宅直後スネる。老いに怖気づく。

■チャート13:クラリッサ、エキセントリックな元カノ・サリーちゃんに思いを馳せる。

■チャート14:元カレピーターくん、ダロウェイ邸に突如襲来。

■チャート15:ピーター、ダロウェイ邸から逃走し物思いに耽る。

■チャート16:ピーター、スミス夫妻をガン見してたのしむ。

■チャート17:ピーター、三十年ぶりの今になって、旧友たちを再認識する。

■チャート18:ピーター、苦しみながらも自身の本質を受け止める。

■チャート19:レイツィア、イキる。横に居る夫の過去回想。

■チャート20:WWⅠ。射線上のエヴァンズ、セプティマス。

■チャート21:セプティマスの想い。

■チャート22:十二時。一方その頃クラリッサ。そしてスミス夫妻の絶望。

■チャート23:リチャード&ヒュー、昼食会をたのしむ。デブのヒュー、とことん嫌われる。

■チャート24:リチャード・リア充・ダロウェイ、ノリでクラリッサ用の花を買って帰る。


■チャート19:レイツィア、イキる。横に居る夫の過去回想。

 

いま、通りで「たとえ見る人あるも、何ごとやある」とうたっているこの老婆を見かけた彼女は、なにごともうまく運ぶ、と唐突に確信した。サー・ウィリアム・ブラドショーのところへいくところだけど、なんて響きのいい名前だろう。すぐにもセプティマスを治してくれるだろう。(p150)

・ここのところずっと不幸続きだったので、周りの出来事について色々な意味を与えて、縁起を担ぐ癖がついていたルクレイツィア・ポジティブスミス。さぁセプティマスの療養に行きましょう。センセイも賢そうな名前だしいけるいける!!ナンカ上位者っぽい名前ね!せぷちーなんて1パツで完治じゃい!うぉ~!

 

ロンドンはスミスを名のる何百万人もの若者をのみこんだが、両親が子どもに特徴をあたえようとしてつけたセプティマスのような風変わりな洗礼名には、いっこうに顧慮することはなかった。(p153)

・さて場面はセプティマスの過去回想。詩人としての才を発揮するべく、故郷ストラウドを出奔しロンドンにたどり着いた若き日のセプティマス。街は繊細な若者を他と等しく扱い、等しく疲弊させていきました。

 

そこでフットボールを勧め、夕食に招待し、そろそろ昇給を提案しようかと思いはじめていたその矢先、ミスタ・ブリューワの目算の多くを吹き飛ばし、彼からその有能な部下たちを奪い去る事件が起こった。(p155)

・ロンドンで没個性化してゆくセプティマスの中に、大きな才能を認める者も居ました。競売、価格査定、土地不動産を仕る商会の支配人、ブリューワはセプティマスを盤石に育て、自分の跡を継ぐほどの才の華を咲かせる事を夢見ます。そんな矢先に始まりました第一次世界大戦。セプティマスはまっさきに志願兵となり、戦火に身を投じました。おれがイギリスを救うのだ!ウォー(war)!

 

 

チャート20:WWⅠ。射線上のエヴァンズ、セプティマス。

 

そして塹壕のなかで変化が、ミスタ・ブリューワが彼にフットボールを勧めたときに願っていた変化が、たちまち起こった。男らしくなり、下士官に昇進し、エヴァンズという名の将校の注目を、というより愛情を得た。ふたりはまるで暖炉のまえの敷物のうえでじゃれあう二匹の犬だった。(p155)

・志願先で才を目覚めさせ、将校・エヴァンズとの出会いを果たすセプティマス。たちまちセプティマスはエヴァンズのお気に入りとなります。(同性愛的な意味で)

 

そのエヴァンズが、休戦の直前にイタリアで戦死したとき、セプティマスはまったく動揺の色を見せず、これで友情が終わったと落ちこむこともなく、ほとんどなにも感じなくて、平静でいられる自分を喜んだ。(p156)

・ミラノの宿舎でシェルショックに蝕まれていたセプティマス。当初は心が落ち着き払っている事に安心や喜びすらを感じていましたが、しかし段々、物事に対してなにも感じなくなっているのだと分かり恐怖を感じ、宿舎で帽子を作っていた、陽気で軽薄な娘(ルクレイツィア)と婚約をします。この娘が帽子を作る様子を見ている限りは、落ちていくような不安感に苛まれないと感じたからです。

 

 

■チャート21:セプティマスの想い。

 

男女間の愛はシェイクスピアにとって穢らわしいものだった。交接のいとなみは終末を前にした彼にとって汚辱だった。しかしレイツィアは子どもが必要だという。もう結婚をして五年にもなるんだから、と。(p160)

・戦後、妻を連れて国へ戻り、仕事でもミスタ・ブリューワから良いポジションをいただくに至ったセプティマスでしたが、レイツィアからの(ごく一般的な男女間で有り得る)愛情をめっきり理解できなくなっていました。当時のレイツィアからすると夫がバリバリの心病中なんだとは思ってもおらず、黙って難しい本を読んでいて素敵♡寡黙で知的♡イギリス人って真面目で聡明♡とイチャつかれていました。ウワーッ、妻が穢らわしい!シェイクスピア助けて!ダンテー!ダンテコッタ!

 

こんな世界に子どもを送り出すなんてできない。苦悩を永遠につづけてゆくなんて。感情がたえず揺れ動き、ただ気まぐれと自惚れのままに、こちらに渦をつくり、あちらに渦をつくりながら生きるこの好色な動物の種族をふやすわけにはいかない。(p161)

・子どもを欲しがるレイツィアの様子を見ての、セプティマスの確固たる想い。

・この状態で子ども作ったってネグレクト直行なのである意味正解だと思う。

 

妻がはるか遠くでしゃくりあげているのが聞こえる。それは正確に聞こえるし、はっきりと聞こえる。ごとんごとんと動いているピストンの音に似ていると彼は思った。だけどなにも感じなかった。(p163)

・さて時は今。気がつくと目の前で妻が泣いておりました。誰々さん所はこないだ子どもを産んだのに!子どもがいないまま年を取るなんていやだ。そんな妻の様子に対するあまりにあんまりな反応がこちら。

・それはそれとして、この状況、夫婦として危うい状態だという意識はあるので、頭を抱えて見せて、降参アピールをしてみせるセプティマス。誰かどうにかしてくれ!THE☆タスケテ!ウワーッ!

 

エヴァンズが戦死したとき、ぼくは平然としていた。あれは最悪だった。(p164)

・ものが感じられない事にひどく苛まれ、正しい人間性を意識するあまり、それらから乖離している自らを非難するセプティマス。正しい人間性によるであろう自己の裁きによって、卑劣な自分に与えられるべき評決は死ぬことでした。

 

「獣め!獣め!」、人間性、つまりホームズ先生が部屋に入ってくるのを見て、セプティマスはこう叫んだ。(p169)

・またもエヴァンズの幻覚を見てその名を喚き錯乱するセプティマス。呼び寄せられた担当医ホームズに怯えます。ホームズもレイツィアも、もはや誰も自分のことを理解してくれません。世界が正しいと選んでいるのはホームズです。だから誰もおれをわからない。ぞっとするような人間性の呵責そのものであるこの男、ホームズ先生から逃げ出してしまいたい。

 

 

■チャート22:十二時。一方その頃クラリッサ。そしてスミス夫妻の絶望。

 

ちょうど鐘が十二時を打ったとき、クラリッサ・ダロウェイは緑色のドレスをベッドに置き、ウォレン・スミス家はハーリー・ストリートを歩いていた。十二時が約束の時間だった。たぶんグレーの車が前にとまっているあの家がサー・ウィリアム・ブラドショーのお宅だ、とレイツィアは思った。鉛の輪が空中に溶けていった。(p169)

・オシャレ版「一方その頃」。十二時、ダロウェイの邸宅でクラリッサはドレスのほつれを繕い終わったのか、緑のドレスをベッドへ放しました。

・ホームズ先生の紹介もあり、値は高いけど腕の良いブラドショー先生のところへ赴くスミス夫妻。

 

ウォレン・スミス夫妻と呼ばれるふたりが診察室に入ってきたとたん、彼は理解した。男を見たとたんに彼は確信した、きわめて重症だということを。(p172)

・実力も医師としての雰囲気も何もかもデキる医師、ブラドショー。セプティマスの病状を汲み取り、レイツィアと離れて療養地への移送を提案します。それがベスト。とすると夫婦は離れ離れになって暮らさなくてはなりません。これにレイツィアは反対。レイツィアにはセプティマスが必要なのに、しばしの離別がベストだと宣告されてしまったのです(セラピー的には正しい)。誰も友達もいないこのロンドンで。絶望。夫婦は今度こそ孤立してしまいました。

 

 

■チャート23:リチャード&ヒュー、昼食会をたのしむ。デブのヒュー、とことん嫌われる。

 

「今朝、公園でクラリッサにお会いしましたよ」とヒュー・ウィットブレッドは、キャセロールのなかにフォークとナイフを突っこみながら言った。彼は、ロンドンに出てくればたちまちみんなに出会う自分に、ささやかな賛辞を送りたかったのだ。がつがつした人、いままでに見たことがないくらい食い意地が張っている人だ、とミリー・ブラッシュは思った。(p191) 

・クラリッサが誘われなかった(のをめっちゃ根に持ってる)レイディ・ブルートンの食事会さなか、世間話をしようとしただけで何かを見透かされてブルートン邸の侍女にも軽蔑されてしまう高級デブ。かわいそう。

 

一同が微笑した。ピーター・ウォルシュ!ミスタ・ダロウェイは心から喜んでいる、とミリー・ブラッシュは思った。なのにミスタ・ウィットブレッドときたらキャセロールのなかの鶏肉のことしか考えていない。(p191)

・懐かしのピーターくんがいまロンドンに帰ってきてるんですって!とインド帰り53歳を話題に取り上げたレイディ・ブルートン。リチャードとヒューは懐かしき友、ピーター・ウォルシュに思いを馳せます(侍女視点ではデブは鶏肉の事しか考えてない)。リチャードは、その懐かしい友人の事が大好きでした。

 

むかしピーター・ウォルシュはクラリッサに恋していた。昼食が終わったらすぐに帰宅してクラリッサを見つけよう。そしてはっきり、愛していると言おう。うん、そう言おう。(p192)

・懐かしき友、ピーター・ウォルシュと同時に、静かにクラリッサを想うリチャード。物静かに、知的に、紳士的に俯くこの男の様子に侍女はウットリ。でもヒューはいやしい俗物デブ扱い。かわいそう。

 

 

■チャート24:リチャード・リア充・ダロウェイ、ノリでクラリッサ用の花を買って帰る。

 

ふたりはショーウィンドーをのぞきこんだ。なにかを買うつもりも話をするつもりもなく、別れを告げるつもりだったのだが、ただ逆向きの風が街角でぶつかり、肉体のなかで潮がひき、午前と午後というふたつの力が出会って旋風をなすのを感じて、立ち止まったのだ。(p202)

・昼食会をあとにして、ともに帰路を歩むリチャードとヒュー。下校みたいでかわいい。二人は何か積極性に突き動かされるわけでもなく、とてつもなく適当に、宝飾品店の前に立ち止まりました。

 

イーヴリンがいればこのスペイン製ネックレスをほしがるだろう(とヒューは言った)、たぶんほしがるだろう。ああ、あくびが出る。ヒューのやつが店のなかに入ってゆく。「そうだろうとも!」と、その後を追いながらリチャードは言った。(p203)

・なんかここまで来たらスパッと別れるのもなーんか口惜しい付き合いの長い男友達。ノリで宝飾品店にのり込みます。仲良しかよ。

 

でもなにか贈り物をもっていきたい。花か?そう、花がいい。金のアクセサリーを見る目には自信がないからな。(p205)

・ノリで宝飾品店に入ったは良いものの、馴染みの店主としか取引したくないのだとバイトにイキり散らす高級デブの様子に嫌気が差し、付き合っていられなくなったのでヒューに別れを告げて早々に店を出るリチャード・ダロウェイ。それはそれとして、ピーターの事と同時にクラリッサを想った事への記念として、何か贈り物をしようと考えていました。二、三年前にブレスレットを贈ったときには一度も身につけてくれなかったのを思い出して心を痛めショゲショゲするリチャードでしたが、花ならワンチャン(?)。じゃーなーデブ!!また今夜ッ。そこでバイト相手にイキってろッ!アバヨ!!

 

クラリッサには愛しているとはっきり言おう。ずっと昔、ピーター・ウォルシュに嫉妬を感じたことがあった――彼とクラリッサに。だけどクラリッサはピーター・ウォルシュと結婚しなくてよかったとしばしば言っている。クラリッサの性格を知れば、それはたしかにそのとおりだ。彼女には支えが必要だから。弱いということじゃない。しかし支えが必要なんだ。(p208)

・クラリッサに贈る薔薇の花とひと言を胸に抱えて、自宅へと帰るリチャード。さて、家でパーティの準備をしているクラリッサに会って伝えましょう。


バッソニャンも塹壕のなかで覚醒してオソヴィエツごっこをやりたいけれど、あの尿染みの包帯って、舐めたくない。つづく?