最愛のあなたへ。
読みたいけど読みにくい。そんなウルフ作品を楽しもうと、グッと来た文章や表現を書き留めつつ、物語の進行チャートみたいなものを作ろうとする試み。
主観や推測だらけで勘違いもきっともりもり。ウルフはWolfじゃなくてWoolfなのがすき。
V(ヴァッソニャン).
[ダロウェイ夫人](集英社文庫 丹治愛訳)
サリー・シートン灼熱レズ回からピーターの内部決着まで。
~おもな登場人物~
クラリッサ:主人公。目に見えるすべてを楽しむ人生エンジョイ勢。
リチャード:夫。わたしの名前はダロウェイさん。
エリザベス:クラリッサとリチャードの娘。
サリー:若き日の元カノ。エキセントリックなお転婆ガール。
ピーター:若き日の元カレ。インド帰りの53歳。
デイジー:ピーターの今カノ。インド駐屯軍のお偉いさんの人妻。
セプティマス:シェルショックを患うナラティブソルジャー。裏主人公。
ルクレイツィア:セプティマスの妻。小柄で可愛らしいイタリア人。
エヴァンズ:セプティマスの戦友。故人。頭の中で地獄に手まねきしてくるナイスガイ。
~チャート~
■チャート1:クラリッサ・ダロウェイ51歳、パーティー用の花を買うためにロンドンの街に繰り出す。
■チャート2:花屋に向かう道をのんびり歩きながら、あれこれと考えてみる。
■チャート3:元カレの事を思い出したらイライラしてきましたわ!
■チャート4:クラリッサ・ダロウェイ、ヒア・アンド・ナウを愛していると自覚する。
■チャート5:生きる事で、死について気づく。
■チャート6:さて、えーっと。花屋に向かいましょう(本屋を見ながら)。
■チャート7:夫人、花購入RTA完走。代わりの主人公セプティマスが登場。
■チャート8:セプティマス・ウォレン・スミス、甲斐甲斐しい妻に付き添われお散歩中。
■チャート9:女王陛下の車(たぶん)、走るだけで多大な影響を与える。王室パワーを垣間見よ。
■チャート10:孤独にがんばるルクレイツィア。イギリスってクソだわ!
■チャート11:ロンドン一般市民ガチャSR文豪デンプスターさん登場。濃いモブたちの内省の様子。
■チャート12:ダロウェイ夫人帰宅直後スネる。老いに怖気づく。
■チャート13:クラリッサ、エキセントリックな元カノ・サリーちゃんに思いを馳せる。
■チャート14:元カレピーターくん、ダロウェイ邸に突如襲来。
■チャート15:ピーター、ダロウェイ邸から逃走し物思いに耽る。
■チャート16:ピーター、スミス夫妻をガン見してたのしむ。
■チャート17:ピーター、三十年ぶりの今になって、旧友たちを再認識する。
■チャート18:ピーター、苦しみながらも自身の本質を受け止める。
■チャート13:クラリッサ、エキセントリックな元カノ・サリーちゃんに思いを馳せる。
もしも頭をあげれば、リチャードがドアの取っ手をできるだけ静かに離すときのカチャという音が聞こえるだろう。靴をぬいで忍び足で階段をのぼってくる。そしてしょっちゅう湯たんぽを落としては、畜生!などと言う。わたしは大笑いする!(p62)
・心臓の病から治ったばかりのクラリッサ。ムリは禁物で夫のリチャードが気を利かせて寝室を移してくれたり、湯たんぽ持ってきてくれたりします。そしてしょっちゅう落とします。わざとやってんのかテメー。
この恋愛の問題(と彼女は上着を片付けながら思った)、女性との恋愛という問題だけど、たとえばサリー・シートンのことを考えてみよう。若いときのサリー・シートンとの関係。あれは結局、恋愛だったのではないだろうか?(p62)
・そんな夫リチャードのことはさておき、青春時代に思いを馳せて見ると思い出されるのはサリーというちょっと年下の女の子。今から何十年も前、サリーと出会い過ごした日々のことを振り返ります。あれって、あの年ごろの女性同士特有の、ガチ恋だったんじゃないかなあ。
誰かに恋をすると(あれが恋でなくてなんだろう?)、ほかの人たちがその人にまったく無関心でいることほど不思議なことはない。(p67)
・やることなすことエキセントリックで可愛らしくおばかさんだったと振り返り、そんなサリーにくびったけだったクラリッサ。みんながサリーに対してやや辛辣だった事が不思議でなりません。自分はお転婆なサリー姫を守り献身する騎士のような役割だったのかもしれないと振り返ります。
・そして場面は若き日の昼食後の散歩タイムに。散歩の場にはピーターも居り、クラリッサの関心を独占しているサリーにちょっとした皮肉を投げかけたりもしますが、クラリッサには「このすべてがサリーの背景にすぎない」と存在を一蹴されてしまいます。ピーターかわいそう。
そのときだった、わたしの全生涯でもっとも素晴らしい瞬間が訪れたのは。お花が植えてある石の瓷のところを通り過ぎたときだった。サリーは立ち止まり、花を一本つみ、わたしの唇にキスしたのだ。全世界がひっくり返った感じだった!ほかの人はみんな消えうせ、サリーとふたりきりになった。(p68)
・前項お散歩の続き。突然クラリッサにキスをしてみるサリー・シートン。すさまじい衝撃がクラリッサの世界を覆い尽くし、ピーターの存在がもはや背景ですらなくなりました。ピーターかわいそう。
■チャート14:元カレピーターくん、ダロウェイ邸に突如襲来。
あの人のことを考えるとき、なぜかいつも喧嘩の場面を思い出すけれど、たぶんそれだけあの人からよい評価をもらいたがっているからなのだろう。(p69)
・サリーから流れるようにピーターとの思い出も振り返り、自分とピーターの間にあった気持ちの正体に感づくクラリッサ。
わたしはいつも同じであろうと努め、それ以外の面――欠点や嫉妬や自惚れや猜疑心――はその気配すら見せないようにしてきた。たとえば、レイディ・ブルートンが昼食会にわたしを招待してくれなかった、という感情。ほんとうに卑しい感情だ!(p71)
・周りからどう思われているのかを気にし、高貴なロールを演じることを良しとするクラリッサ。周りから見て良くあろうとする努力の裏で、根に持った悪しき感情を処理しきるのには時間がかかっているようです。
「ええ、ぼくには会ってくれますとも」、男はそうくりかえして、ルーシーをそっと優しく押しのけ、大急ぎで階段をかけのぼってくる。「きっと、きっと、きっと」、階段をかけのぼりながら、そうつぶやいている。「会ってくれるとも。五年ぶりでインドからもどったんだから。クラリッサは会ってくれる」(p76)
・今夜のパーティーのため、ドレスのほつれを繕っているうちに、ダロウェイ邸につかつかと入ってくるインド帰りの53歳。老いた元カレピーターくんでした。
・ルーシーはダロウェイ邸のメイドちゃん。クラリッサともなかよし。
こういう次第です!と彼は思った。あとはその人と子どもたちについてどうぞお好きなようにお考えください、クラリッサ。こういう次第です!するとインド駐屯軍の少佐殿の奥さん(おれのデイジー)とふたりの小さな子どもたちが、クラリッサに見つめられるうちに、刻一刻、ますます愛らしく感じられてくるのだった。(p86)
・久しぶりに会ったクラリッサと二人、身の上話を嗜むピーター。彼はインドで出会った女性に首ったけになってしまいました。ロンドンに帰ってきたのも離婚協議のためのようです。「彼は今、恋をしているのだ」とクラリッサにもきちんと感じられるほどの熱情を吐露したピーターに今更になってギャップ萌えするクラリッサ。
■チャート15:ピーター、ダロウェイ邸から逃走し物思いに耽る。
「教えてくれ」と、彼女の両肩をつかんで彼は言った。「しあわせなのかい、クラリッサ?リチャードは…」ドアがあいた。「わたしのエリザベスよ」とクラリッサは感情をこめて、芝居がかって言った。「はじめまして」とエリザベスは進み出て言った。三十分を告げるビッグ・ベンの鐘の音が異常な迫力でふたりのあいだに響いた。力持ちの、無頓着で無分別な若者が鉄亜鈴をあちこち振り回しているようだ。「こんにちは、エリザベス!」とピーターは、ハンカチーフをポケットに押し込み、エリザベスのほうに急いで歩み寄りながら大きな声で言った。そしてクラリッサのほうを見もせずに、「さようなら、クラリッサ」と言うと、部屋から飛び出し、階段を駆けおり、玄関のドアをあけた。「ピーター!ピーター!」クラリッサは彼を追って階段の踊り場まで行き、戸外の騒音に負けないように声を張りあげて、「今夜のわたしのパーティ!忘れないでね!」と叫んだ。(p89)
・わたしのエリザベスよ、これが私の人生よ。劣等感や敗北感も込めて、クラリッサの人生に疑問を投げかけるピーターに毅然と示したのは自分の半生そのものとも言える愛娘、エリザベス。二人とも若さを取り戻したかのようにドラマチックなひと場面。
「わたしのエリザベスよ!」という彼女のあの言い方――あれは癪にさわる。どうしてただ「エリザベスよ」じゃ駄目なんだろう。ああいう言い方は誠実じゃない。エリザベスだって嫌だろう。(p92)
・感極まってダロウェイ邸から走り去ってしまったピーター。最後に示されたエリザベスの事を気にかけます。そして用もなく街を歩きながら、泣いて喚いて、クラリッサにあらいざらいぶちまけてしまった事を恥じながら、クラリッサから離れて過ごした日々のことやこれからの事を考えます。
・それはそれとして、リチャードには就職の口をきいてもらわんとなあ…と思いに耽るピーターがかわいい。
濃く優しい葉巻の煙が渦をえがきながら冷たく彼の喉をくだっていった。それから彼は煙を吐き出して輪をつくった。果敢に風と対峙するいくつかの輪。青くて丸い。今晩エリザベスとふたりきりでちょっと話をしてみよう、と彼は思った。(p104)
・街を歩きながら、ピーターは(あらかじめ招待はされてなかったけど)今夜のパーティに行って、彼女の娘、彼女のエリザベスと話がしてみたいかもしれないと思い立ちます。
クラリッサはあいつを「ウィッカム」と呼んでいた。そしてそれがすべてのはじまりだった。誰かが連れてきたあの男の名前をクラリッサがまちがっておぼえたことが。彼女はあいつを一同にウィッカムさんと紹介した。とうとうあの男は「わたしの名前はダロウェイです!」と言った。それがリチャードを見た最初だった。(p113)
・クラリッサ、ピーター、サリー、リチャードで過ごした若かりし日の一幕を思い出して。のちにクラリッサと結ばれる事となるリチャードとの初対面でした。良くも悪くも直感と閃きに優れていたピーターは、不思議なことに、クラリッサとリチャードはのちに結婚するだろうという事をなんの根拠も無しに確信し、その自身の閃きに驚き、竦み、圧倒されてしまいました。
サリーはこれを面白がって、以降いつもあの男のことを「わたしの名前はダロウェイさん」と呼んだものだった。(p113)
・そういうとこぞ。
そこにクラリッサが、いかにも名主人らしい完璧な身のこなしでやって来て、ある人をご紹介したいのですがと言った。そのときの初対面のような口のきき方におれはむっとしたが、そうしながらもそのことに感嘆を禁じえなかった。おれは彼女の勇気、その社交的素質、物事を徹底してやり抜くその才能に感心したのだ。「完全無欠の女主人だね」とおれは言った。その言葉に彼女はすっかりたじろいだが、それはおれの意図したところだった。彼女とダロウェイが一緒にいるところを見て以来、おれは彼女を傷つけることならなんでもやるつもりだった。(p113)
・そういうとこぞ。
・「完全無欠の女主人だね」に関してはチャート3へ。
■チャート16:ピーター、スミス夫妻をガン見してたのしむ。
また拾いに出ようと全速力で駆け出したが、そのとたんひとりの女性の脚にどしんとぶつかった。ピーター・ウォルシュは思わず噴き出した。しかしルクレイツィア・ウォレン・スミスは独り言を言っていた。つらい。なぜわたしが苦しまなければならないのかしら?(p119)
・クラリッサとの破局の様子までを綿密に思い出し、どうしようもなかった過去の激情に苦しむピーター。リージェント公園で気を紛らわせようと辺りを見回すと、小石を集めに走り回る子供がイタリア人女性に衝突する現場を見て噴き出してしまいます。
(この人はまた独り言を言っている。いやだ、やめて!)(p126)
・脚にぶつかり倒れた子供をなだめ慰め、一時の安らぎを得てからセプティマスのところに戻ってきたルクレイツィア。まだぶつぶつ言ってた…。
しかし枝は左右に分かれた。グレーの服を着た男が実際にこちらに歩いてくる。エヴァンズだ!だが体に泥がついていない。傷跡もない。変わっていない。(p128)
・いまだ公園のベンチに座り、ぶつぶつと独り言を言いながら何かに納得し、なにやら勝手に真理を理解しひとり高次元の存在へと高まりゆくセプティマス。いいところで戦死した親友エヴァンズくんが地獄らコンニチワしてセプティマスを怖がらせます。ウワー!エヴァンズ!!
これが若いということだ。ふたりのまえを通り過ぎながら、そうピーター・ウォルシュは思った。そんな朝っぱらから大喧嘩とは。かわいそうに女のほうはひどく憔悴している。しかし原因はなんだろう?女にあんな顔させるなんて、外套を着たあの若い男、いったいなにを言ったんだろう?いったいどんなむずかしい事情があるんだろう?こんな天気のよい夏の日の朝にふたりしてあんなみじめな顔をしてるなんて。(p129)
・なにやら問題を抱えたスミス夫妻を見ての、ピーターの感想。クラリッサが外面に出さないように努力していただけで、ピーターもクラリッサを泣かせているのですが(完全無欠の女主人!)、それが若いということだ(無敵の理論)。
・そんなしみったれた夫婦やロンドンを見ながら、なんやかんやでピーターが出した結論は、このロンドン、老いた今となってはなにもかもひとつひとつが印象的に見えて、魅力的だというちょっぴりクラリッサじみたものでした。
■チャート17:ピーター、三十年ぶりの今になって、旧友たちを再認識する。
ごく最近、「青いあじさい」がどうしたとか、ひどく感傷的な長い手紙を寄こした人物。青いあじさいを見て、あなたのことや昔の日々を思い出しました、と。もちろんサリー・シートンだ!サリー・シートン――お金持ちと結婚して、マンチェスターあたりのお屋敷で暮らすなんて、この世でいちばんしそうにない人だったのに。突飛で大胆でロマンティックなサリー!(p132)
・ふとサリーの現況を思い出すピーター。エキセントリックなサリーは数十年を経て、意外な生活をしていました。クラリッサはダロウェイの野郎と、ダロウェイの野郎はクラリッサと結婚。サリーは金持ちと結婚。おれはインドで誰にも知られず苦労してた!
たぶんウィットブレットならなんとかしてくれるだろう。そうでなければダロウェイなら。ダロウェイにはなんでも頼みやすい。あれは根っからいい男だから。ちょっと了見が狭く、ちょっと鈍いところがある。たしかにそうだが、しかしほんとうにいい男だ。なにをやっても、いつも分別があり実際的。想像力は薬にしたくてもないし、才気のひらめきもない。だがあのタイプの人間に特有の、言うに言われぬ性格のよさがある。(p136)
・ヒュー(クラリッサの幼馴染の高級デブ)に相談すればそこそこの給料貰える職にありつけるかな?そうだ、リチャード!あいつは根っこがいい奴だから、やっぱりリチャードに就職の相談をしようと考えるピーター。いやはや、リチャードっていい男なんですよホント…おれの予想通りクラリッサが結婚したもの納得だ、とリチャード萌えを繰り広げるピーター。
・リチャードは体癖1or2っぽさを感じる気がしないこともない。
たとえば、あのクラリッサの大きな毛の長い犬が罠にかかって前脚がちぎれそうになったときは、とても立派だった。クラリッサは気が遠くなっていたので、ダロウェイが全部ひとりで処置した。包帯をまき、副木を当て、その一方でクラリッサにはしっかりしなさいと叱咤激励。彼女があいつを好きになったのは、たぶんそのせいだ――そういったものを必要としていたのだ。「さあ、しっかりしなさい。これをもっていて。あれをとってきて」。そしてそのあいだじゅう、まるで人間を相手にしているかのように犬に話しかけていた。(p136)
・ピーターのリチャード萌えポインツ。
・サリーからは、リチャード(と、大嫌いな高級俗物ヒュー・ウィットブレット)みたいなロンドン特有の俗世的紳士とくっつくとクラリッサは俗世的資質だけを助長しちゃうから、ピーターがクラリッサとくっつけばいいんじゃね?YOUヤっちゃいなよ!とそそのかされたりもしていました。
でもそのなかで記憶に残るのはクラリッサなんだ。といって目立つというのではない。ぜんぜん美人でもない。絵のような美しさはまったくない。とくに気のきいたことを言ったりもしない。でもそこにいる。そこにいるという存在感はあった。(p138)
・昔からクラリッサには、一番の才能とも言える独特の求心力がありました。美人でもなく特別サービスもしないのに、周囲の人々を惹き寄せてしまう、独特の存在感。
・それはそれとして、昔クラリッサに恋をしていたという事実もあり、今に彼女の事を考える事自体がなかなかに未練っぽくないかと苛まれるピーター。決してもう恋などしていないと、あくまでどういう人間なのかを再認識するべくクラリッサの本質を考えているのであると結論づけます。
おれは彼女が青二才をつかまえ、ねじったり、ひっくり返したりして、目をさまさせ、一人前にするのを何度も見てきた。もちろん彼女のまわりには無数の鈍重な人間が集まる。だけど型にはまらぬ奇妙な連中も顔を出した。時に芸術家だったり、時に作家だったりだが、あの雰囲気のなかでは変人だった。(p140)
・周りに集まってくる様々な人々に甲斐甲斐しく世話を焼き、無意識にダメ人間更正機でもあったクラリッサ。後半からはブルームズベリー・グループチック。
・そして、そういった少しでも関わり合った人々のひとりひとりを忘れず、細々とした交際を長年誠実に続けていけるのが、クラリッサの才能でした。
むろん彼女は人生を大いに楽しんでいる。楽しむのは彼女の本性なのだ(とはいえ存分に楽しまず、自制するところがあるのも確かだ。よく感じることだが、これほど長くつきあっていながら、彼女について知っているのはたんにスケッチ程度のことにすぎない)。とにかく彼女には苦々しさがない。(p142)
・クラリッサの本質の続き。目に見えるすべてを楽しめる人生エンジョイ勢。
■チャート18:ピーター、苦しみながらも自身の本質を受け止める。
情熱は依然として烈しいけれど、人生にこのうえない風味を加えることができる力、つまり経験をとらえ、光のなかでゆっくりとながめまわす力を得たということだ――ようやく!(p143)
・クラリッサの娘、エリザベスにはたぶん、母の時代遅れな旧友=老害だと思われていたんじゃないかなあ、と思い立つピーター。自らの老いた人生や人間性を認めた上で、堂に入った答えを出すことができました――ようやく!
・ウルフの別作品「灯台へ」ラストみたいな爽やかさすら感じるピーターの内部決着。
ほんとうのところ向こうがおれに惚れているんだからな。おそらくそのためだろう、船が出航したあと、おれは異様な安堵感を感じ、ひとりでいたいとひたすら思い、船室のなかに彼女のちょっとした気遣い――葉巻やらメモやら航海用の膝掛けやら――を見つけて、かえって迷惑に思ったものだった。正直な人間ならば、誰だって同じことを言うだろう。(p144)
・リージェント公園を去りながら、改めて老いた「今」の人生の再認識を試みるピーター。「今」直面している問題といえば、インドの人妻デイジーちゃん問題です。しかしピーターは、実のところ、男は五十も過ぎると他人が必要でなくなる、いつまでも女のご機嫌取りをするのはイヤすぎる、女に甲斐甲斐しく媚びられるのは面倒くさい!というのが、本当に正直な男の本音だと結論づけます。では、デイジーに固執する理由はなんでしょう?
このところオード少佐にあっています、と前回の手紙でデイジーは書いて寄こした。わざと書いたってことはわかっている、嫉妬心を起こさせるために。なにを書けばおれが苦しむか思案しながら、頬に皺を寄せて机にむかっているあいつの姿が見えるようだ。だがわかっていても感情は変えられない。腹が立つ!(p145)
・自分の本質、根底にあるのは嫉妬心なのだと苦しみながらも受け止めるピーター。デイジーちゃんはなかなかの悪女。今回離婚協議のためにイギリスに帰ってきたのだって、デイジーと結婚するためというよりは、デイジーが他の男と結婚できないようにするためという側面が強かったようです。
・そうしてピーターはひとり歩んでゆきます。今夜のパーティーまでどこで時間を潰そうかな?
ピーターとクラリッサは案外似た者同士なのかもね。つづく?
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