· 

低脳と読むV.ウルフ「ダロウェイ夫人」①

最愛のあなたへ。

 

読みたいけど読みにくい。そんなウルフ作品を楽しもうと、グッと来た文章や表現を書き留めつつ、物語の進行チャートみたいなものを作ろうとする試み。

主観や推測だらけで勘違いもきっともりもり。ウルフはWolfじゃなくてWoolfなのがすき。

V(ヴァッソニャン).


[ダロウェイ夫人](集英社文庫 丹治愛訳)

冒頭からせぷちー初登場まで。


~おもな登場人物~

クラリッサ:心臓病を克服した病み上がりポジティブババア。主人公。

リチャード:旦那。あんまり束縛しないタイプ。

ヒュー:クラリッサとは信頼関係で結ばれし偉いデブ。

ピーター:メチャクソに破局した元カレ。今はインドの女にお熱。

セプティマス:シェルショックを患うナラティブソルジャー。裏主人公。


~チャート~

■チャート1:クラリッサ・ダロウェイ51歳、パーティー用の花を買うためにロンドンの街に繰り出す。

■チャート2:花屋に向かう道をのんびり歩きながら、あれこれと考えてみる。

■チャート3:元カレの事を思い出したらイライラしてきましたわ!

■チャート4:クラリッサ・ダロウェイ、ヒア・アンド・ナウを愛していると自覚する。

■チャート5:生きる事で、死について気づく。

■チャート6:さて、えーっと。花屋に向かいましょう(本屋を見ながら)。

■チャート7:夫人、花購入RTA完走。代わりの主人公セプティマスが登場。


■チャート1:クラリッサ・ダロウェイ51歳、パーティー用の花を買うためにロンドンの街に繰り出す。

 

ミセス・ダロウェイは、お花は私が買ってくるわ、と言った。(p11)

・1923年6月、クラリッサ・ダロウェイ「ダロウェイ夫人」は、今夜自宅のお屋敷で開催するパーティーのために、自ら花を買いに出かける事を宣言します。使用人は他の用事で手一杯になって忙しそうだし、クラリッサだってロンドンの街を散歩しながらあれこれと人生について考えてみたいお年頃なのでした。とにかく、花はこの私クラリッサ・ダロウェイが買いに行って参りますとも。ドアひっぺがしたりオフィスグリコの応対とか他の用事はそれまでに済ませといてくれや。ほいじゃあな!

 

なんという晴れやかさ!大気のなかへ飛び込んでいくこの気分!ブアトンの屋敷でフランス窓を勢いよくあけ、外気の中へ飛びこんでいったとき、いつもこんなふうに感じたものだった。(p11)

・さてお出かけだ!外に出た途端に、若い頃に感じた爽やかな感情・思い出を想起するクラリッサ。老いても彼女のものごとを感じ取る心は若々しく、厳かで人工的な屋敷から一歩外に出て、晴れやかな自然の中に飛びこむ気持ちよさが伝わってくる。

・晴れやかといいつつ、イギリスってしょっちゅう雨が降るみたい。うらやましい。いつものジメジメ感があるからかな、きっとこの場面の晴れやかさもひとしお。

 

 

■チャート2:花屋に向かう道をのんびり歩きながら、あれこれと考えてみる。私の人生。ロンドン。あの人。元カレ。この瞬間。

 

鉛の輪が空中に溶けてゆく。(p13)

・ふとロンドンの街に響き渡るビッグベンの鐘の音。鐘を叩いた衝撃が空気を揺らして、徐々に無くなっていく。周りの全てが愛おしいとでも言うようにクラリッサはあらゆる物を「感じ」て内心に表現しています。ロンドンちゅきちゅき。

・この表現ちゅきちゅき。後から調べてみたらビッグ・ベンの鐘の音って学校のチャイム音の元ネタなんですね。知らんかった。

 

この静寂、この霧、かすかなざわめき、のんびり泳ぐ幸せそうな鴨、よたよた歩くペリカン。そしていかにも似つかわしいことに、官庁の建物を背にして、王家の紋章入りのアタッシェ・ケースをぶらさげてやって来るのは誰あろう、ヒュー・ウィットブレッド!(p15)

・公園に足を踏み入れて(多分オリチャー発動。花屋直行の最適ルートじゃない)鳥やら空気感やらを存分に感じながら、ふと幼馴染の御立派デブ(高級仕様)が歩いてるのを見つけて興奮するダロウェイ夫人。

・ちなみにこのちょっと前に元カレ(ピーターくん)の事を考えていたけどその時の10倍は心沸き立ってる気がする。

 

 

■チャート3:元カレの事を思い出したらイライラしてきましたわ!

 

ヒューには心情も脳味噌もなく、ただイギリス紳士の礼儀作法や育ちが身についているだけだとピーターは言うけれど、それこそがむしろ愛すべきピーターのいちばん嫌なところ。たしかにときどきどうしようもなく鼻持ちならない人物になるけれど、こんな朝に、一緒に歩くには最高の相手だ。(p17)

・今では疎遠な元カレ・ピーターによるヒューくん評とクラリッサによるヒューくん評。別に「そういう関係の異性」じゃなくたって、散歩相手に適してる人ってあるんです…と昔のことや思い出を次々と思い出すクラリッサ。だんだん思い出はピーターの事にフォーカスされていきます。

・ピーターに関しての思い出がたくさん出てくるので、ピーターがそれを知れば、多分嬉しがるでしょうね(そういう男だ…たぶん)。

 

わたしを完全無欠の女主人と呼んだりもした(わたしは口惜しくてベッドのなかで泣いたっけ)。(p19)

・鬼畜リアリストピーターによる、付き合っていた当時のクラリッサ評まで思い出したけど、今では良い思い出です(陰湿大憤怒)。若い頃って何をするにしろたくさんのエネルギーが消費されたり、ぶつけたり、ぶつけられたりするものでした。今なにしてるんでしょうね、ピーター。考えてたらムショーにイライラしてきましたわよ。

 

(今朝だって彼はどこにいるのかしら?なにかの委員会。でもそれがなんの委員会か、わたしはたずねたりしない)。(p19)

・結婚には、わずかでも「自由」やら「独立」が必要と考えるクラリッサと最終的にくっついたのはリチャードくんでした。

そんな夫が何をしているのか、どこにいるのか。そんな事逐一知ろうとしなくて良い。カップル・夫婦といえど絶妙に距離感を保ち、不必要に束縛しないデキる男(?)リチャード・ダロウェイ。「自由」と「独立」でNTRを阻止しよう!

・今の結婚がほんとに正しかったのかな?って考えそうであんまり考えないというか、既に結論出てるけどがんばれピー助!

 

だからあの小庭園の噴水のそばで喧嘩になったとき、別れなければならなくなったのだ。さもなければふたりともめちゃくちゃになり、破滅していた。それは確実。(p19)

・ピーターとの破局の様子を思い出しながら。二人のエネルギーのずいずいずっころばしの先にあるのは、もっと悲惨な破滅に違い有りませんでした。

・ピーターってリアリストとは言ったけど、ロマンチストな気質もありそうに感じる。破滅が待っているのが確実なら最後まで二人で破滅しよう。しろ。って感じの。

 

 

■チャート4:クラリッサ・ダロウェイ、愛しているのはヒア・アンド・ナウでした。

 

誰にも思い出はある。だけどわたしが愛しているのは、目の前にあるこれ、ここ、いま。タクシーのなかの太ったご婦人だ。(p21)

・過去の思い出に触れて、色々あったけれど、今の自分はただ今を生きる事が楽しみで仕方がない。少なくとも今の私の根底にあるのはそう、ヒア・アンド・ナウ。

・あっタクシー乗って花屋に行くんスね。→徒歩です。BGMはSwing Out Sisterの『Here And Now』でおねがいします。

 

 

■チャート5:生きる事で、死について気づく。

 

ちょうど靄が木々に支えられるように、わたしがいちばんよく知っている人たちのあいだに、靄のように広がりながら、彼らの枝に支えられて。はるか遠くまで生き残ってゆく、わたしの人生が、わたし自身が。(p22)

・ただ「今」を生きるのが私の全てだったなら、死んだあとの事なんかどうでもよくない?死んだとしたって、私がいろんな人達や景色の事を思い出すように、誰かの思い出の中に、景色の中に、永遠に存在できるのかも。それってむしろ、慰めですらあるよね。

 

 

■チャート6:さて、えーっと。花屋に向かいましょう(本屋を見ながら)。

 

自分はたいてい、人にこう思われたいとかああ思われたいとか、まず考える。まったく馬鹿げたことだとはわかっている(いま警官が手をあげた)。(p24)

・花屋…に向かう途中、書店のショーウィンドウを眺めてふと、精神を患って入院しているヒュー(高級デブ)の妻へ、お見舞いの本を見繕うと思い立つクラリッサ。でも彼女が喜んでくれるような本は無さそうだし、それじゃあ私は、彼女の部屋を訪ねた時に、彼女が嬉しそうにしてくれるような人になれない。なりたいのに。という偽善的な内心に気づき自己嫌悪に苛まれるクラリッサ。

・()内の描写が肝。非常にわかりやすいタイプの意識の流れ。

 

 

■チャート7:花は買いました。代わりの主人公セプティマスが登場。

 

この花の美しさ、このかぐわしさ、この色彩、好意と信頼を寄せてくれるミス・ピムの存在が、あたかもひとつの波となって彼女を覆い、憎しみというあの怪物を、もろもろの思いと一緒に、押し流してくれたかのようだった。そしてその波は彼女を上へ上へと運びあげていった。と、そのとき――ああ!お店の外の通りでピストルの発射音!(p29)

・自分の事を良く思ってくれている花屋のちゃんピムてぇてぇ…♡しながらやっとこさ花を手に入れたクラリッサ。これにて花購入RTA完走です。完走した感想を言おうとしたら銃撃音…ではなく何やら通りで高級車(というか車乗ってる奴はブルジョワだ!精神)のタイヤがパンクしたご様子。ンッン~誰が乗ってる車ナーノ?野次馬が大量に集まってまいりました。

 

鉛管を一巻き肩にかけたエドガー・J・ウォトキスは、まわりに聞こえる声で、もちろんおどけて、「総理でえじんの車だったよ」と言った。

人混みに巻きこまれて立ち往生したセプティマス・ウォレン・スミスはその声を聞いた。(p31)

・ここで突然、かつ他のモブ(エドガー・J・ウォトキスやミス・ピム)のように自然に、そこにいて当然というような描かれ方で登場するセプティマスという男、モブじゃなくって「ダロウェイ夫人」という物語の裏主人公と言っていいほどの人物になります。でも主人公クラリッサとの絡みは一切ありません。野次馬どもに道を阻まれるせぷちーかわいそう。ところで志村けんみたいだなおまえ(ウォトキス)な。


いやさぁババアの話なんて馬鹿にしてたさ。がねぇ、いやぁ、味わい深かったって感動したぁ。つづく?